ヴァイの日記 -思い出のくびかざり-
「まちがえて渡してしまった本を取り返してくれ」
とのリスボン交易所店主の依頼で倫敦まで僕はやってきた。
幸い、その本を受け取っていた学者は返品に応じてくれ、さっそく懇意になった酒場娘のアンジェラを通じてポルトガル商船に依頼を果たした旨の伝言を頼んだ。
返してもらった稀覯本は、実際に手渡ししないといけないだろうが、期限を設けられていないから、今すぐリスボンに戻る必要もないだろう。

倫敦は、王国の依頼でアムステルダムにいった際、一度だけ寄っただけだったので、暫く逗留しようと思っていた。このあたり一帯の情報を纏め上げてリスボンのディアス提督に報告すれば、幾許かの報酬が期待できるからだ。

軍事的にイベリアより発展していた倫敦は、リスボンではお目にかかることの中々できない大砲や船舶装備やらが充実していた。

「船長、折角きたんですから、新しい大砲でも購入したらいかかです?」
僕が大海原に旅立ったときから一緒に苦難をともにしてる副長が声をかけてきた。
「今、装備してるミニオン砲では、少々心もとないですぜ。デミ・キャノン砲でも装備しておけば沿岸海賊程度なら一蹴できますぜ」
「そうはいうけどさあ・・高いよ・・」
大砲職人の開いているバザーを眺めながら、僕は愚痴った。
正直、この前購入した小型キャラック「ヘルメス号」の出費やらで財布の中身は軽くなってしまっていた。
「まあ、僕は軍人じゃないし、今はいいよ。学者の本を閲覧するだけでも、結構出費なんだ」
「そうですかい・・・まあ、船長がそうおっしゃるなら」
副長の心配するのも僕には良く分かった。
ここ最近、沿岸海賊とかに襲われるようになったからだ。
パルシャ乗っていた頃は、相手にもされなかったのにね・・・。
大砲購入したいのは僕もやまやまなんだよ。
でも、先立つものないとねぇ。

倫敦市内を色々見聞し、宿で報告書を纏め上げた僕は、翌日、倫敦の冒険者ギルドに足を運んだ。
国家間で色々争いごとがおきていても、ギルドは基本的に不介入・不干渉の姿勢をとっている。
そうしないと、お互いのギルド同士で無用な争いや、依頼の遂行に障害が起こる事があるからだ。
リスボンの冒険者ギルドメンバーの僕は倫敦のギルドでも同じ扱いをうけれる。
「よく来たな。ヴァイ君か。倫敦は初めてかね・・・」
初老のギルドマスターに挨拶を済ませた後、仲介依頼人から、僕の技量でも遂行できそうな依頼が無いか聞いてみた。

依頼人はじっくり舐めるように僕を眺めて、幾つかの依頼を紹介してくれた。

野生の草の採取・・・つまらなそうだ・・・丸太の採取・・・リスボンでしょっちゅうやってる・・・ここでも丸太はたりないのか・・・漁場調べ・・・釣りやらないしなあ・・・

どれも、なんかたいした事のない、駆け出し向けの依頼ばかりだった。

「リスボンと代わり映えしないね」
思わず、依頼人に愚痴ってしまった。でも、そうなっても仕方ないよ。折角ここまできて、草やら丸太やら集めるのも面白くないから。
「・・・・・・」
ややムスっとした表情になった依頼人はお前にできるかどうかわからないが、ひとつ難しい依頼がある、といった。
「どんなの?」
「倫敦宝石商組合からの依頼さ」
依頼の内容は、こうだった。

ナントにある、上品な装飾品を見て詳細を報告してくれ、との依頼だ。僕でなくとも出来そうな物だが、その持ち主が中々承諾しないそうなのだ。何人かの冒険者が会いに行ったが、ことごとく門前払いくらったそうだ。
「ずいぶん、お高い人なんだね・・見せてくれるだけだったらいいような気するんだけどね」
「まあ、そうだろうな。でも、相手は王族さ」
口元を歪めて依頼人は苦笑した。
「見ず知らずの、貧乏くさい人間では盗むんじゃないかと警戒して相手にもしてもらえないのさ」
「・・・・王族?」
「そうよ。ナントにおらっしゃるマグルリット女王陛下さ・・その持ち主は」
依頼人は、お前ごときに出来るのか、といった小馬鹿にした表情でそう言った。

つづきます。

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